眼瞼下垂の医学

● 正常な瞼の開き(開瞼)とは

眼瞼が開くのは、瞼(まぶた)中の動眼神経支配の眼瞼挙筋と、交感神経支配のミューラー筋の筋肉の収縮、またこれらの筋力が弱い場合は、額の前の筋肉である前頭筋を収縮させ眉を吊り上げることで、瞼(まぶた)の挙上を図るものですが、瞼(まぶた)を閉じる眼輪筋との力の兼ね合いで上手くバランスをとっています。 なお開瞼の主役たる眼瞼挙筋は途中から腱膜という膜様の腱になっていて、瞼板というまぶたの縁を作っている軟骨板の前面に付着しています。 ミューラー筋が交感神経支配のため、鼻から大きく息を吸うと、そのミューラー筋が収縮し写真写りが良くなることが知られています。

●眼瞼下垂の病態

眼瞼下垂は、瞼(まぶた)が十分に上がらない状態のことをいい、瞼(まぶた)が下がったままなので、視界が狭くなったり、物が見えにくくなったりします。症状として瞼が重い、夕方になると瞼が開きにくい、目の疲れ、目の奥の痛み、肩こり、頭痛、不眠などが生じます。 眼瞼下垂の原因には大きく分けて、先天性( 生まれつき) と後天性( 生まれた後)の原因があります。 先天性の下垂の90% 以上は単純眼瞼下垂で、原因は眼瞼挙筋の形成不全と観られ、片眼性が多く、両眼性の約3 倍を占めます。 後天性眼瞼下垂には、老人性、外傷性、医原性、神経病性、機械性などあります。後天性の中で一番多いのは老人性で、老化での挙筋腱膜( 筋肉の末端) の弛緩や断裂が原因です。機械性の代表はコンタクトレンズ眼瞼下垂で、瞼がレンズで擦れることによって、腱膜の物理的損傷を来たすか、コンタクトレンズでの結膜炎が二次的に眼瞼下垂を起こすものです。 正常な開瞼時は上瞼の縁は黒目上端より2mm下にありますが、これより瞳孔寄りに下がったら軽度の眼瞼下垂、瞳孔にかかると中等度、瞳孔の中央より下がると重度です。中等度以上は当然視力障害が出ます。中等度以上になると視野が暗くなります。瞼をテープで吊り上げると視野が明るくなり楽になるときには、手術の適応となります。

●眼瞼下垂に対する手術概要

例えですが、パンツのゴムの伸びきったパンツも、ゴムを縫い縮めてしまえば、またはけるようになりますが、同様なことを行なうのが、この手術です。 術式は大別すれば、皮膚側からのアプローチと結膜側からのアプローチに分けられます。 このうち皮膚側からのアプローチは挙筋自身だけをを修復したり前転したりして挙筋機能の改善を図る方法(眼瞼挙筋前転法)と、大腿筋膜など採取して眉と重瞼ライン間に移植し前頭筋の力が瞼に直接効くように吊り上げする方法(上眼瞼吊り上げ術)に分けられます。挙筋の収縮機能が4mm以上ならば眼瞼挙筋前転法の適応、挙筋機能が4mm未満ならば上眼瞼吊り上げ術の適応と考えた方がよいものです。皮膚側アプローチは皮膚切除も行なえるため皮膚が弛緩した老人性眼瞼下垂では、ほぼ全例適応となります。 結膜側からのアプローチは、挙筋とミューラー筋のみを切除短縮する方法と、瞼板も含めて切除短縮してしまう方法(FasaneIla-Servat 法)があります。この瞼の裏からのアプローチは皮膚に傷が付かない、腫れが目立たないという利点がある反面、瞼の裏からなので術者が慣れるまで症例経験を積む必要がある、皮膚側からのアプローチと違い軽度の症例にしか適応がない、学会でも眼瞼下垂の手術としてミューラー筋を切除してしまう事に問題があるとの指摘もあります。

●眼瞼下垂の手術:眼瞼下垂術の麻酔

基本的に局所麻酔で行なうべきです。それは術中に何度か開瞼させて、眼瞼下垂の具合を確かめて見た方が良いからです。全身麻酔ではそれができません。 皮膚側アプローチでは直接、瞼に血管収縮剤入りのキシロカイン(局所麻酔剤)を注射して行ないます。 結膜側アプローチでは、まずベノキシールという点眼麻酔剤を点眼し、その後、結膜に注射します。 両方のアプローチとも前投薬として鎮静剤(安定剤)を使うことで適度な眠気を催すのは適切と観ます。 静脈麻酔を併用する施設もあるかも知れませんが、効き過ぎて、術中の開瞼の指示に応答しなくなるとしたら問題です。

●眼瞼下垂の手術:眼瞼下垂、皮膚側アプローチ

全切開+挙筋短縮眼瞼挙筋腱膜修復法 は 眼瞼挙筋腱膜前面を剥離(結膜側の剥離しない)し、露呈した眼瞼挙筋前面を瞼板の上端の位置に固定します。 眼瞼挙筋前転法は、瞼板上縁を確認後、眼瞼挙筋腱膜裏面を切離・剥離しながら、ミューラーr筋を眼瞼挙筋側に含めるようにして結膜をできる限り薄く剥離します。次に眼瞼挙筋腱膜前面を剥離し、その上で挙筋およびミューラー筋を前転させ瞼板の上端の位置に固定します。これら手術では、余分な皮膚がある場合には、皮膚を切除しますが、通常筋肉を切除する事はなく、切らずに縫い縮める「タッキング」をさせて効果を出します。 皮膚側から眼瞼挙筋は遠いので、到達するまでの侵襲は大きめのため、 瞼の皮下出血斑や開瞼不全、逆に開瞼過大により閉瞼不全により、球結膜の乾燥を来たすことがあります。その場合、後で若干後戻りしますから改善することが多いです。

●眼瞼下垂の手術:眼瞼下垂、結膜側アプローチ

眼瞼下垂の手術は、挙筋が瞼後方に存在するため、皮膚側からより結膜(瞼の裏)から切開する方が、すぐ到達できます。これは侵襲が少なく、腫れや傷の点で利点が大きいと言えます。しかし筋肉(腱膜)を切り取っての手術のため正確な組織の同定が必要であると伴に、この短縮に伴うミューラー(muller)筋の切除に対して一部の医師から学会で異論があるものです。しかし筆者は若い人のコンタクトレンズによる眼瞼下垂や健常者に対する美容的要求のある眼瞼下垂には、もっぱら結膜側アプローチを行なっていますが、2年以上フォローしている人が何人もいて考察しますに、適応を選んで行なえば医学的に推奨される術式と考えています。何より、これから結婚するような若い女性の瞼に長い切開は出来れば避けたいと思っています。

●眼瞼下垂の手術の術後合併症

パンツのゴムも縫い縮めれば、また使えるようになる。と言っても新品とは違う。これと同様な限界があります。
1.寝ている時の少しの開瞼(兎眼と言い、瞼裂が開いてしまう状態)。生れつきそういう人もいますが、この手術の後は無意識で重力の影響も 働かなくなる仰臥位での睡眠では閉瞼しなくなることがあります。しかし実測2mm位までなら、角膜の乾燥などによる障害は出ないものです。
2.急に下を見た時の上眼瞼後退。眼球の動きに瞼が追従せず、黒目の上の白目が一瞬見えてしまう事が起き得ます。
3.軟部組織の手術である点から若干の後戻り、それを考慮し過ぎての過度の矯正。
4.睫毛の外反、内反。